天使の午後 伊津野雄二展~光の井戸~ 神戸 ギャラリー島田

今日は天使の午後を過ごしました。朽木祥さんの著書『八月の光』の表紙の天使を作られた伊津野雄二さんの展覧会に行ったのです。場所は神戸のハンター坂にある島田ギャラリー。安藤忠雄建築の建物にあるギャラリーです。
『八月の光』

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島田ギャラリー

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にぎやかな通りから地下に降り、光だけが射す静かなギャラリーに、作品が展示されていました。伊津野さんの作品を初めて拝見しましたが・・・まさに、光が溢れてくるような喜びを感じる作品たちでした。美しいとか、芸術的とか、そんな言葉まで不似合いと思えるような、魂が震える喜びです。天上の音楽。この耳には聞こえない、伊津野さんが形になさらなければ私たちの眼には決して触れないもの。命や時の重なりに、常に深く分け入る営みを自分に課してらっしゃる方だけが表現できる言葉にならぬもの。女性の形をしている胸像は、石や木の肌触りをそのまま残して、力強く微かに微笑んでいます。そこに、私は慈しみ、命への礼讃を感じてしまいました。
そう、作品たちは一見たおやかなのですが、とても力強いのです。さっき私は「天上の音楽」と書きましたが、この個展のタイトルは「光の井戸」。伊津野さんの光は、地から射しているらしい。大地から生まれるもの。草花や石や、木や、全てのものに宿る力が、そこから溢れだしてくるようでした。伊津野さんの女神や天使は、天と地を繋ぐもの、時の隔たりを超えて私たちを結ぶ「祈り」の根源的な形なのかもしれません。・・・などとどれだけ言葉を紡いでも、あの作品の香気はとても伝えられるものではないのですが。ギャラリーの主、島田氏のお話も少しお伺いしましたが、伊津野さんはこの作品そのもののような穏やかで気品のある方だとか。「女性の形をしているけれども、性を超えた命の力強さが溢れている」(言葉そのままではありません)というようなお話をされていました。なるほど・・・。
島田氏のブログに紹介されているのですが、「幕間」と名付けられた小さな小さな本を読む天使の像がありました。壁に掛けられているので、ふわりと浮かんでいるように見える天使です。この天使がもう、なんとも可愛らしくて無垢で、一目みてすっかり恋してしまったのです。静かな喜びに満ちているこの天使が、もし私のところに来てくれたら、どんなに心やすまるだろう。そう思った瞬間、あそこを綺麗にして、この天使のコーナーを作って、その下に美しい小机を置いて、花と大好きな本を飾って・・と、一気に妄想が膨らみ(笑)おそるおそるお伺いしてみたところ、二つとも既に完売でした(泣)そうだよねえ、まさかうちの家になど、あの天使が来てくれるわけないよねえと思いながら、今もあの優しいお顔を思い出すたびため息なのです。いつか・・いつか、伊津野さんの作品をお迎えできるような御縁がもらえたら良いなと、しみじみ思った午後でした。
帰りは、ひさびさに「にしむら珈琲」で遅いランチ。

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老舗らしい落ち着きと行き届いたサービスで、おいしい珈琲もますます美味。
そして、帰りの電車の中で、ふと思い立って持ってきたディヴィッド・アーモンドの新作、『ミナ』を読んだのです。伊津野さんの作品の香気に洗われて一瞬生まれかわった心に(ほんまかいな)ミナの瑞々しい息吹が吹きこんで、ずんと心の芯に響きました。『ミナ』は、蒼ざめた天使が登場する『肩胛骨は翼のなごり』の兄弟のような物語。主人公の男の子とスケリグを助ける女の子、ミナの物語です。我ながら、このセレクトに共時性を感じてしまいました。年に何度かあるかなしかの、佳き日。まさに、天使の午後を過ごした一日でした。『ミナ』については、また明日。

 

by ERI