東京本屋めぐりの旅 3

 

  19日(金)は、やっと快晴!再び本屋さん巡りに萌え・・・いや、燃えました(笑)
まず、中央線の御茶ノ水で降りて、ニコライ聖堂へ。秋の日射しに白壁の建築が映えて美しかった。正面のステンドグラスに『太初に言あり 言は神と共にあり』とあるのが、大学と古書の街である土地柄に相応しい。

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古書街を目指して歩いていると、有名な山の上ホテルがありました。池波正太郎先生はじめ、文人が缶詰になって原稿を書いたというホテルです。そっとロビーを覗かせて頂きました。落ち着いた雰囲気の、歴史を感じさせる佇まいにうっとり。田辺聖子全集が置いてありましたよ。東京での定宿なのかしらん。写真は、ホテルの立体駐車場の建物だと思うんですが、蔦が絡まって、なにやら不思議な佇まいを醸し出していました。東京というところは、割合に緑が多くて。人の多さに疲れた心がほっとします。

 

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昔から、それこそ池波正太郎先生はじめ、いろんな方のエッセイを読んで、東京の地名などはけっこう頭には入っているんです。でも、実際に歩いてみると、なぜこのホテルが文人たちに愛されてきたのか、立地条件や位置関係を知って腑に落ちるんですよね。皇居がどこまで広がっているのか、そんなことさえ、実際に見ていないとわからない。前日に、改装の終わった東京駅のど真ん中に立って、振り返ったとき、皇居まで何も遮るものなく道が通っているのを見て、なるほどと納得感が湧いたように、自分で歩いてはじめてわかることってあるな、としみじみしました。街の在り方は、やはり歴史と結びついている。土地の記憶を感じるのが東京歩きの面白いところです。
神保町の古書街では、みわ書房さんに行きました。児童書専門の古本屋さんです。細い通路の両脇には、子どもの本がいっぱい。ここでは、『ニューヨーク145番通り』を買いました。買おうと思っていた本にふっと出逢える、縁が繋がるのが、古本屋さんめぐりの楽しいところ。

 

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ここで、もっと神保町をぐるぐるしたい気持ちをぐっと抑えて、再び中央線で吉祥寺へ。まず、「百年」という古本屋さんに行きました。古本屋さんというよりは、おしゃれなセレクトショップという雰囲気のお店。ここは、ほんとに品ぞろえがとても良くて棚を涎を垂らしながら見つめてしまいました。絵本の状態が良くて、友人はここでたくさん絵本を購入。
次に「トムズボックス」へ。ここは、小さな絵本屋さんなんですが、絵本好きには有名なお店です。まず、入口が可愛い!!カレルチャペック紅茶店の吉祥寺本店の奥にあります。

 

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「トムズボックス」は、いつもギャラリーで個展が開かれているのが有名なんですが、私たちが行った時も、<「裏庭に咲いた話」大野八生展>が始まったばかりでした。実は、この大野八生さんの絵本『カエルの目玉』を、前日教文館ナルニア国で見て、「これ、いいよねえ」と友人と盛り上がっていたのです。非常によく観察して書いてらして、それでいてとぼけた味もあって、色がとても美しい。その絵を描いてらっしゃる方と、次の日にお会いできるなんて、思わず不思議な縁を感じてしまいました。個展は『夏のクリスマスローズ』(アートン)に収録されている絵の原画が展示されていたのですが、これがまた、ほんとに美しかった。愛情いっぱいに植物を育ててらっしゃるのが、伝わってくるんです。まっとうで鋭敏な感受性の美しさが、とても心地よくて・・描かれている植物の可愛さに胸がぎゅっとしました。会場には、ご本人がいらしてて、本を買った私たちに声をかけてくださって、さらさらと本の見返しにイラストまで書いてくださいました。「何がいいですか?」と聞いてくださったので「うちの2匹の猫たちを」とお願いすると、一瞬でさらさらと書きあげる、その筆運びの見事さに感動。
この本です。

 

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書いてもらったイラストは・・・内緒(笑)。友人はクリスマスローズを書いてもらっていましたが、それもとても美しかった。ほんと、行って良かった!
そのあと、高円寺の「えほんやるすばんばんするかいしゃ」へ。ところが、ここで迷いに迷ってしまい、たどり着くのが遅くなってしまいました。ここは、外国の絵本がたくさんあります。あまり他では見たことがないような珍しい絵本がたくさん。でも、帰りの時間が迫っているのと、歩きすぎてけっこう疲れてしまったので、あまり見る時間と体力がなかったのが残念でした。ここでは、マーガレット・ワイズ・ブラウンの『よるとひる』を買いました。ワイズ・ブラウンとレナード・ワイズガードのコンビの絵本が好きなんですよ。

 

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もう、ここで体力が限界でした(笑)中央線で東京までまっすぐ帰って新幹線に乗りました。中央線沿線って、便利ですよねえ。吉祥寺も高円寺も、また行ってみたい街です。
ふう・・・あちこち行ったなあ。本屋さんばかり行った三日間。楽しかった!また、来年あたり行きたいな。

by ERI

世界中が夕焼け 穂村弘の短歌の秘密 山田航 新潮社

今の若者たちは、短歌というものをどれくらい読むんだろう。中学や高校の授業で駆け足で通り過ぎて終わり・・というのが、大多数ではないかと思うんだけれど。かく言う私も、そんなに現代短歌に詳しいわけではないのだが、こういう本を読むと、やっぱり読まなきゃもったいないな、と思う。

風の交叉点すれ違うとき心臓に全治二秒の手傷を負えり

校庭の地ならし用のローラーに座れば世界中が夕焼け

こういう心の動きに、キュンとこない高校生はいないんじゃないかと思う・・・んだけどなあ。どうなんだろう。膨れ上がった自意識がちりちりする感じ。世界中が夕焼け、と思うむき出しの視線と、そこに漂う不安。ぎゅぎゅっと、「今」が肉薄してくる感じがする。短歌は、当たり前だけれど、千年以上の長い長い歴史があって・・・私たちの使う日本語の言葉の力と呪いのように深く結びついているもの。五七五七七という定型は、そのまま日本語の基本です。だからこそ、一つ使い方を誤ると、ただの陳腐な入れものになってしまう。言葉の力をいったん定型から引き剥がして、再び構築しなければ「今」を語る短歌は生まれないでしょう。この本は、穂村さんの短歌を山田航さんが詳しく解釈し、その解釈に穂村さん自身がコメントを付けたもの。この、山田さんの解釈がとっても面白いです。優れた「読み」は、新しい目を開かせて、作品に新しい魅力を与えるものだと、改めて感じさせられました。

穂村さんと私はほぼ同世代で、自意識の在り方とか、言葉の背景にある時代感覚とかが、理屈抜きで伝わってくるところがあります。その自分の感覚で掴んだものと、山田さんの歌人としての眼差しと心性で掴んだものの違いに、はっとさせられます。

春を病み笛で呼びだす金色のマグマ大使に「葛湯つくって」

by ERI