カエルくんのだいはっけん! 松岡達英 小学館

 松岡達英さんの命への愛情が、いっぱいに詰まった絵本。松岡さんというと、『ぴょーん』のカエルの表紙を思い浮かべてしまうが、この絵本の表紙も、元気なカエルくんだ。このカエルくんは、生まれたてというか、カエルになりたてのほやほや。だから、その目に映るもの、何もかもが色鮮やかで瑞々しい。

四ヶ月検診で赤ちゃん達に会うと、目の美しさにいつも見とれてしまう。透明な水の膜がうっすらと瞳を覆う、生まれたての目で見たら、どんなにこの世界が色鮮やかに見えるだろうと思うのだ。この絵本の命の輝きを見て、私は、「あっ、これが生まれたての目で見る世界かも」とドキドキした。沼や、川や、夜の森や、茂みにいる昆虫や虫たちが、見開きいっぱいに展開して、生き生きと動いている。生まれたての子どもの眼差しと、経験を積み重ねた表現力と、生き物への深い理解。優れた画家は皆この三つを兼ね備えているのかもしれないが、松岡さんはその力を、惜しげも無くこの絵本に注ぎ込んでいる。この見開きに描かれる生き物たちは、全て食べたり食べられたりする関係で、こうして多種多様な存在がいることで、大きな命の環が出来ている。それが、とても自然にわかるのだ。

今、虫やカエルを、気持ち悪いと思う人が多い。私も小さな頃はびっくりするぐらいの虫嫌いで、虫だらけの田舎に帰省するのが気が重かったが、今から思うと、とても貴重な経験だった。空が真っ赤になるほど群れ飛ぶ赤とんぼや、手ぬぐいひとつで掬い放題に小魚がいる沢。そこにオニヤンマが無数に卵を産むところを、息を潜めて見入ったし、アリジゴクの巣にいろんなものを落としてみたりした。父に連れられて滝に行ったとき、そこがあまりにひんやりと冷たくてしんとしているのが怖かった。今、石牟礼道子さんの『水はみどろの宮』を読んでいるのだが、人の魂の奥深くに分け入るような世界に入っていくとき、その入り口は人ではないもの―虫や花や、川や木の息づくところにあるのだと気付かされる。この世界を人間ではないものの目で眺めてみる眼差しは、人間が人間として旅をするのに必要なことなのだ、きっと。松岡さんの生き物の絵本に出会ったら、きっと本物の自然に向いたくなる。夏休みに、親子でゆっくり楽しめる絵本だと思う。どこかにキャンプに行く前に読んだら、そこで虫たちに出会うのが楽しみになるかもしれない。私の周りにいる絵本好きな人たちにもとても好評だった。見返しの、泳ぐカエルさんの絵も、とっても可愛い。私のようなカエル好きにはたまらない一冊。

2016年5月刊行
小学館