しおちゃんとこしょうちゃん ルース・エインズワース 河本祥子訳・絵 福音館書店

『こすずめのぼうけん』『ちいさなロバ』のエインズワースの絵本だ。ちいさなものへの眼差しに、子どもたちへの深い慈しみを感じる。子どもたちが、どうか幸せに生きていってくれますように、という祈りのような思い。もちろん、それがたやすく叶えられるものではないことを知り尽くしているからこその、祈りだ。

子ねこのしおちゃんとこしょうちゃんは、競い合って大きなもみの木に登ってしまう。河本祥子さんの絵がとても素晴らしい。しなるモミの枝と見事な遠近法で、屋根より高い枝の上ですくんでしまった子ねこたちの視点を、俯瞰で感じさせてしまう。そこからきゅっと画面はしおちゃんとこしょうちゃんにクローズアップしていく。二匹は鳥や飛行機に助けを求めるのだが、当然のごとく願いは届かない。そうこうしているうちに夜がやってくる。どうしようと困り切ったそのとき、もみの木の下に、ふたつの光が現れて二匹のところに登ってくるのだ。ふたつの光はしおちゃんとこしょうちゃんの、お母さんだ。良かった!家の中に戻った三匹は、くっついて眠る。その幸せそうなこと。

二匹を迎えにきたお母さんのタビーふじんは、冒険に出て失敗してしまった二匹を叱ったりしない。「さあ、もう ベッドに はいって、ねる じかんですよ」と静かに話しかけるだけなのだ。冒険の結果、誰かに助けてもらうことになっても、それは決して恥ずかしいことでも、責められることでもない。自分の足で歩き出そうとする子どもを見守る優しい眼差しが、ぬくもりとなって心に届く。

この本の中で子ねこたちを助けてくれるのはお母さんだ。もちろん、それは子どもの「安心」に直に繋がる大切なこと。でも、それと同時に、子どもたちは、この絵本を作ったエインズワースと河本さんの心を受け取るのだと思う。見知らぬ大人たちが、自分に届けてくれる、祈りと慈しみ。それを心の奥底で感じることは、子どもの心を育てる大きなゆりかごになるのだ。そう思わせてくれる絵本が好きだ。

1993年に「こどものとも」で発行された本を、ハードカバーにして再刊したもの。

福音館の持っている絵本の財産は、素晴らしい。

2016年2月発行

福音館書店