四月になれば彼女は 海街Diary6 吉田秋生 小学館

夏にこのシリーズの新刊を読むのがとても楽しみです。6巻の表紙も青空。でも、変化の予感に少し切ない夏の空です。

すずちゃんたちも中三になって、進学問題が目の前に迫ってきています。サッカー強豪校から特待生のオファーがきた彼女の揺れる気持ちと、そんな彼女を見守る風太の複雑な気持ち。「四月になれば彼女は」は、サイモン&ガーファンクルの懐かしい曲のタイトルです。久々にあの美しい歌声をYou Tubeで探して聞いてみたのですが、恋が季節が変わるように移ろっていく、という歌詞なんですね。「四月になれば 多分 何もかも変わる」という風太のセリフのように、きっと一年後にはいろんなことが変わっている。15歳という変化の季節のまっただ中にいることはお互いよくわかっていて、多分心の奥底で自分がどうすればいいかもよくわかってる。だからこそ「今」がかけがえなくて切ないんですね。思い切りジャンプする前の一時。鎌倉の海辺を、相合い傘で歩く二人のシーンがとてもいい。風太はすずちゃんが遠くに行ってしまうのが、やっぱり怖いんですよね。15歳でお互い何の約束も出来ないこともわかってる。でもなー。「理由とか別に聞かねえけど でも おまえが話聞いてほしいって時は いくらでも聞いちゃるから」って、こんなことを言ってくれる男子は、そんなにいないと思うわ。(私が出会ってないだけか?)もし、二人が変わってしまっても、きっとこの瞬間はすずちゃんの心の居場所の一つになると思うのです。

居場所といえば、すずといとこの直ちゃんが、鎌倉の山奥に工房を構えている女性を訪ねる「地図にない場所」というお話は、特に良かったですね。女性が作った作品の美しさに感応してやってきた直ちゃんは、彼女の心の扉を開く秘密の鍵を持っていた。美しさに共感するということは、同じ心を分け合うということなんですよね。地図にない場所は、自分の心の居場所でもあります。すずちゃんや風太の住む鎌倉は、現実の鎌倉にはない、読者だけがいける地図のない場所でもあります。何と、来年実写で映画化だとか。見たくもあり、怖くもあり(笑)今NHKでやっている村岡花子さんを主人公にした朝ドラは、あまりに酷い内容なので見るのをやめてしまったし。好きな世界を映像化されるというのは、微妙なことですねえ。どうなることやら。

海街Diary 5 群青 吉田秋生 小学館フラワーコミックス

毎日ブログを訪問している、「くるねこ大和」のくるさんが、今日は落ち込んでました。胡てつんの入院がこたえているらしい。くるさんもかあ・・猫好き人間にとって、自分の不注意や至らなさで猫に何かある、というのはとても辛いです。(胡てつんの入院は、くるさんのせいじゃないです。念の為。)私の落ち込みは、ガスコンロの工事に来てもらったときに、私の不注意でぴいを脱走させてしまったこと。業者さんの出入りに気をつけているつもりで、一瞬の隙を突かれてしまった。幸い、30分ほどですぐに帰ってきたけれど、その間生きた心地がしませんでした。長らく外に出していなくて、最近はあまり出せ出せと言わなくなっていたこともあって、油断してたんですよね。ちゃんと帰ってきたからいいものの、またお薬を飲んでいるこの時期に、行方不明にしていたらと思うだけで、背筋が冷える思いがしました。しかも、業者さんにも心配させて、申し訳なかったし・・・。相手はもの言わぬ子だから、こっちが良かれと思ってしていることが食い違ったり、通じなかったりすることもままあります。もっとも、これは人間同士でも同じなのかもしれないですけどね。これからは、もっと気をつけなくちゃいけません。肝に銘じました。

がっくりきて、なんだかちゃんと活字も追えず。この間買ったこの本に、ずいぶん癒されました。この作品の中の時間の流れ方が、とても心地よいのです。鎌倉の街での四人姉妹の生活は、穏やかながらもいろんな波が打ち寄せます。すずの亡くなった祖母からの連絡。幸ねえの、病気疑惑。馴染みの食堂のおばさんの死。みんな、人は、それぞれが生きてきた時間や、背負っているものを携えて、これから歩く道に悩んだり苦しんだりする。その中で言葉にできない思いがたくさん生まれて流れていくんです。この物語は、その言葉にできない思いがちゃんと伝わってくる。彼女たちの思いに触れて、自分が言葉にできなかったあの日の思いが、蘇る。うまく伝えられなくて苦しかったこと。言葉にできなくて、傷ついたまましまいこんでしまったこと。それを、彼女たちとわかちあって、そっと同じ風景の中に、群青の空に解き放てる。この幸せは、なんとも言えません。

空気が薄いほど、空は青さを増すらしいです。そこに立つ人にしか見えない色、景色があって・・・それぞれが違う色の空の下にいるのかもしれないけれど、空はいつも見上げればそこにある。そのことが、とても胸に沁みる。そんな巻でした。うーん・・・やっぱり、「吉田秋生−夜明け− (フラワーコミックスマスターピーシーズ)」は買うべきか。これまで全巻揃えているファンとしては、やっぱり見逃せないかなあ・・・。

2012年12月刊行

小学館

by ERI