父と息子のフイルム・クラブ デヴィッド・ギルモア 高見浩訳 新潮社

 16歳で学校に通うことが出来なくなってしまった息子に、父親は二つ条件を出して学校からリタイアすることを認める。一つは麻薬に手を出さないこと。もう一つは、父親と一緒に週に3本映画を見ること。この本は、そこからの3年間の日々を綴ったノンフィクションです。

親にとって、子どもが学校に行かなくなるというのは、結構こたえることです。いろんな不安が押し寄せる。子ども自身の将来がどうなってしまうんだろうという不安。どんどん社会から取り残されてしまうような不安。これまでの自分の子育てを反芻してはその原因を探して堂々巡りに陥ったり、右往左往の連続です。私の場合、これからリタイアするよ、と明確に引き際を決めることさえも難しかった。無理かも・・・と思いながら、車で大幅に遅刻した息子を無理やり送っていったり。毎日毎日学校に「今日も休みます」と連絡することに疲れ果ててしまったり。ひたすらじたばたし、かえって息子にストレスを与えてしまったようにも思います。まず、不登校という事実を受け入れるまでに親も疲れ果ててしまう。そこからまた歩き出すには、私は時間が必要でした。しばらく呆然としていた、というのが正直なところです。この本の著者のデヴィッドも、だいぶ右往左往されたようなのです。でも、とうとうその事実を受け入れざるを得なくなったとき、彼は息子と「映画を一緒に見る」という取り決めを交わします。そこでこの提案が出来、ちゃんとそのプログラムが実行されたこと。それが、私にはまず驚きでした。うちの場合、鬱や胃腸障害を抱え込んでしまったので、そのときの体調に全てが左右されてしまう面が大きかったこともありますが、ほんとにいろんなことを途中で放り出してしまった。流されるままになし崩しにしてしまった。その後悔があります。だから、こんな風に学校に行くか行かないのかをきっちりと判断させ、なおかつ親子でひとつのことを続けていくことが出来たら、もっと早く精神的な支柱を取り戻せたかのかな、と読みながら思うことしきりでした。

まず、映画を親子で見続けるということが出来たのは、映画という媒体の力が大きいし、父親自身が、映画のことを知りつくしている人だから出来たことでもあるでしょう。自信を持って息子に語れることが父親にある。そのことについて、話が出来る。この『話が出来る』というは、子どもがずっと家にいる状態では、かえって難しかったりします。距離の取り方が難しいのです。ただでさえ、思春期の子どもと親が話をするのは難しい。いろんないざこざでお互い傷つけあったあとでは、なおさら難しい。部屋にとじこもりがちになる子どもに何を話しかけていいのかわからなくなるんですよね。だから、こうしてずっと息子と話が出来るきっかけを映画という媒体を通して作り続けたことが素晴らしいと思うのです。ずっと息子に対して自分を開いた状態にし続けた父親の愛情と努力を尊敬してしまう。父親であるデヴィッドは、説教したり上から目線の言葉を決して投げかけません。息子の感性と考え方を尊重し、彼の若さゆえの行動も、ガールフレンドとのあれこれも、自分の問題として受け入れて誠実に答えていくのです。自分の性的なことに関しても父親に話すジェシーのまっすぐさにも驚きましたが、そこにはお互いに対する強い信頼があるんですよね。私はここまで息子を信頼できていたのかな・・・いや、今も出来ているんだろうか。そんなことを思ってしまいました。

ジェシーは、19歳で学業に復活し大学生になります。ジェシーとデヴィッドは、二人三脚でこの時期を乗り切ったのです。もちろん、この親子と同じことをしようと思っても、はいそうですか、と出来ることではありません。でも、この親子のたどった道から、いろんなことを教えてもらうことは出来そうです。そして、優れた映画案内として読むことも出来ます。私自身が好きでよく見た映画もいっぱい紹介されていましたが、デイヴィッドが語る映画のみどころを読むと、もういっぺん見たくてうずうずしましたもん。もちろん見ていない映画は、メモメモしました(笑)老後は映画をいっぱい見よう・・・って、死ぬまでに読み切れないほどの本のリストを抱えて、まだそんなことを言う自分の欲深さが恐ろしい(笑)

私の子育ては後悔の連続で、ほんとに、ただひたすら流されてしまったことが多すぎた。流されなくては、今度は自分が生きていくことに踏みとどまれなかったのかもしれないし、今もどんどん流されてしまっていることには変わりないのですが・・。その時々の分かれ目でどうすれば良かったのか、それをいまだに考えます。この本は今、苦しみの中にいる人の助けにはならないかもしれないけれど(不登校には、千差万別の事情がありますから)、同じ苦しみを体験した親として分け合える何かがあると思います。その『何か』を与えてくれるものは、これだけ専門書や関係書が出回っているにも関わらず存外少ないのです。読めば読むほど苦しみの中に堕ちてしまうことの方が多いんですよね。自分の家庭のことを書くのは、後書きでご自身がおっしゃるように大変なことだったと思います。でも、そこを押してこの本を出版されたことに、著者の同じ苦しみの中にいる人たちへの想いを感じる・・そんな一冊でした。

by ERI

子どもと絵本に親しむ 【いいお産の日】

今日(11月4日)は、関西ろうさい病院で、【いいお産の日】というイベントがありました。これは、かんさい労務病院のもとでいいお産をし、笑顔のあふれた家庭・社会を一緒に作るという目的で、毎年病院が行っている行事だそうです。そこで『子どもと絵本に親しむ』というテーマで、kikoさんがメインのお話を、私がサブでお手伝いを、という形で参加させて頂きました。

ブックスタート(赤ちゃんに初めての絵本をプレゼントする活動です。今、多くの自治体で行われています)のお仕事をしていてよく思うのが、「絵本」について、親ごさんたちが構える気持ちをもってらっしゃること。「いつから読めばいいのか」「どういう風に読めばいいのか」「どんな絵本がいいのか」漠然と、ルールを求めてらっしゃるように思えることがあります。でも、絵本を読むのにルールはいらない。いつから、どんな絵本を読んでもいいし、どんな風に読んであげてもいい。ルールのない自由さを楽しむのが絵本のいいところだと思っています。一番大切なのは楽しむこと。子どもと一緒に笑顔になれること。子ども時代にしか経験できない、かけがえのない親子の時間を過ごすことが、絵本のある一番の喜びだと思うのです。今日のkikoさんのお話も、実際に絵本を紹介しながら、絵本の楽しさ、絵本と共に過ごす子育ての楽しさについてのあれこれを紹介するという形で進みました。

そこで何組もの親子の皆さんや看護師の皆さんとお話をして思ったのが、「絵本の力」です。会場には、たくさんの本を持っていきました。(リストを固定バーの『おいしい本の特集』の頁に貼っておきます)そこでお話をしながら、または自由に絵本を見て頂いたのですが、皆さん絵本を見ると、とてもいい顔になるんです。「この本覚えてる!」「よくおふくろに読んでもらいました」というお父さん。お父さんたちに人気だったのが『どろんこハリー』です。

このハリーのやんちゃぶりが、お父さんたちの少年心をくすぐるのかも(笑)お父さんたちが、むっちゃ笑顔でした。この笑顔、っていうのがいいんですよねえ。そのお父さんたちの「まだあるんですね、この絵本」という言葉を聞いてはっとしました。

私たちは、図書館で働いていて、いつも身近に絵本があって、どれがスタンダードで長らく愛されている絵本なのかを一通り知っています。でも、大抵の若い親ごさんたちは、絵本に触れる機会が、子ども時代以降、ぷっつりないのです。だから『ぐりとぐら』という絵本を、中川李枝子さんと山脇百合子さんというゴールデンコンビが書いてらっしゃるということも知らない。「外国の絵本なんだと思ってました」という言葉に、こちらのほうが、そうか、それも当たり前なことだよなあと認識を新たにさせて貰いました。スタンダードでなくても、名作でなくてもいいんですけど、「この絵本素敵ですよ」「面白いですよ」といろんな形で紹介することって、やっぱり必要だなと思ったんです。

絵本には力があります。読み手を笑顔にする力。頭の中で、いっぱい想像という翼を羽ばたかせるイメージを生む力。「国語が出来るようになりますか?」ということを期待される親ごさんもいらっしゃるけど、それはまあ「そんなことがあったらいいな」くらいで置いといて(笑)何より、絵本を通じて、いっぱい親子でお話して欲しい。「ちょっと怖い内容の絵本を読んでも大丈夫なんですか」とおっしゃるお母さんもいらしたけれど、お父さんやお母さんのお膝や抱っこの中で、怖い世界を覗くのも、一つの経験だと思います。絵本の、物語のいいところは、ちゃんと帰ってこれるところ。最近流行りの『地獄絵本』なんかは、私はどうなんだろうと思いますが(だって、あれは絵本じゃないですからね。元々の目的が、信仰しないと地獄におちるよ、という脅迫のようなものですから。絵も美しくない)物語の世界を堪能して、また温かいお膝に戻ってくるというのは、これも大きな喜びです。

一人のお父さんが『おおきなかぶ』を見て、しみじみと「これ、おふくろがよく読んでくれたんですよ。うんとこしょ、どっこいしょ、ってすごく元気に読んでくれた声も思いだしました」とおっしゃってました。そのお母さんは、今、ご病気で声がうまく出せなくなってらしゃるそうで・・。でも、絵本を見たときに、元気な時のお母さんを、絵本を読んで、いっぱい抱きしめてくれたその愛情も一緒に思いだせるなんて、なんて幸せなことなんだろう。胸がいっぱいになりました。改めて、絵本っていいなあと思わせて頂けたこと。たくさんの気づきを頂けたこと。貴重な機会を頂きました。看護師長さんはじめ、お世話になった方々に、心から感謝の一日でした。また、こんなふうに、絵本のお話をいろんな方とできる機会があったらと思います。

by ERI