ラビット・ヒーロー 如月かずさ 講談社

自信満々な男の人が苦手です。どちらかというと、ちょっと自信なさげな繊細な人の方が、守ってあげたい感じがして好みかな(知らんがな)そういう意味では、この物語の主人公宇佐くんは、ツボでした。(もっと知らんがな・・・)特撮ヒーローものが大好きな高校生・宇佐くんが、本物のヒーローのようなかっこいい先輩・日高さんに誘われて、ローカルヒーローのショーを作り上げるお話です。出来のいい兄に押されて、ずっと自信なく生きてきた宇佐くんが、初めて自分の意見と力を発揮して少しずつ世界を広げていきます。濃いキャラたちのきめ細かい心理描写とテンポのいい文章で、最後までぐいぐい引き込まれて読みました。その昔、体育祭や文化祭で、あれこれ皆で悩みながら必死になって何かを作り上げた高揚感を想い出します。始めは何だかんだと足並みが揃わなかったりするのに、いつの間にか一つの目的に損得勘定抜きで邁進してしまう、あの感じ。一晩眠れば、すっかり疲れがリセットされる体力がある若い頃にしか味わえない、体ごとの達成感・・・久しぶりに感じさせてもらってとっても楽しかった。そんな世代のみならず、現役中高生も夢中になれる楽しい作品だと思います。

特撮ヒーローの創成期に育ったもんですから、仮面ライダーやウルトラマンシリーズ、怪傑ライオン丸やミラーマン、キカイダーに仮面の忍者赤影(ちょっと違うか)、子ども時代はありとあらゆる特撮ものを見てました。今、ローカルヒーローが日本各地で大流行りなのも、きっと私たちの世代のオジサンたちが企画にからんでるからやないかと睨んでます(笑)男子というのは、染色体に特撮ヒーローものが好きな遺伝子が組み込まれてるんでしょうねえ。この物語の主人公の宇佐くんも、傍からは「オタク」と呼ばれるマニアです。でも、彼はそんな自分に自信がない。出来のいい兄と厳しい抑圧型の母親に押され、学校でも部活もせず、ひっそりと生きる毎日。でも、そんな彼に出逢いが待っています。ひょんなことから、本物のヒーローのような日高先輩と知り合い、先輩のおじいさんが作ったというキリバロンGという本格的なマスクと衣装を使って、ヒーローになることになったのです。身長190センチ、爽やかな男前、バスケ部の英雄という、もう自分と対極の日高先輩。普通なら彼がやる役ですが、いかんせんおじいさんの作った衣装は小さかったのです。

宇佐くんは、とても人の気持ちのわかる子です。日高先輩に恋心を抱く佐倉さんの気持ち。大好きだったおじいさんを亡くしてしまった日高先輩の気持ち。日高先輩が、おじいさんの死に対して、何か屈託を抱えているらしいのにも気づくほど繊細な心を持っています。だから、人の思惑や感情を感じすぎて身動きとれなくなってしまう。でも、そんな彼は、自分の好きなものに対しては細やかな愛情を注ぐことが出来るのです。人は、そんな彼の見た目の弱さを笑うかもしれない。役立たずとなじるかもしれない。でも、本当はそうじゃない。宇佐くんのそんな繊細さや、自分の好きなものを大切に抱きしめる気持ちが、一見なんの悩みもなさそうに見える日高先輩の弱さと苦しみを知らず知らずに救うのです。それまで知らなかった自分と向き合い、内面という未知の領域に踏み込むとき、人は常に弱者なのかもしれません。物語は常に心の旅をする弱者の味方です。この物語は、まるで正反対に見える二人の心に踏み込んで、本当の強さやたくましさというものが何なのかということを考えさせてくれます。読後感もとっても爽やか。佐倉さんの双子の弟たちと、宇佐くんのやりとりにもほっこり、和ませて頂きました。とっても元気が出る一冊です。

 

by ERI