タイムズの人気ファッションコラムニスト、などという肩書きを聞くと、そりゃもうキメキメでエキセントリックなファッション通で、という人物像を想像するのだけれど。このドキュメンタリーの主人公であるビル・カニンガムは、まるで生真面目な郵便局員、といった感じの品の良いおじいちゃんなのだった。ああ、この人はとても誠実で信用できる人なんだろうなあと、その顔を見ているだけでわかってしまう。彼のトレードマークは清掃員が着る青い上っ張り。そのスタイルで、彼はニューヨークの街を自転車で疾走して、ストリート・スナップを撮る。この映画は、彼の日常を、淡々と追いかけたものなのだけれど、そのピシッと筋の通った生き方のダンディズムに魅せられてしまった。私はダンディズムを持つ男性に弱いのである。「あまちゃん」のアキちゃんのように、キラキラの瞳で(?)「かっけ~~!」と心の中で連発してしまった。
彼は有名人には興味はないし、自分の衣食住にも興味がない。恋人も作らなかったし、家族もいない。そんな暇がないほど彼は自分の仕事に没頭し、ひたすら街に出て写真を撮る。まるで求道者のような生活なのだけれど、画面に映る彼はいつもひたすら楽しそうなんである。もう、ほんとに楽しすぎて、ほかのことをする暇が無かったんだろうなあと思う。だから、お金とも無縁。「金をもらわなければ口出しされない」というのも彼の哲学。どんな派手なパーティに出ても、水の一杯だって飲まない。「美を追い求める者は、必ず美を見出す」。これは、彼がフランスの国家功労賞を貰ったときの言葉だ。かっけ~!!彼は、果てしないファッションという海の中から、煌めく真珠を見出すアーティストなんだろうと思う。「美しさ」は、誰かが発見して初めて「美」になる。そして、ファッションの美しさというのは、それを着る人がいて表現されるもの。彼は、無料で着飾った有名人には興味はないらしい。自分の生活の中で、何を選んで何を捨てるか。自分の生き方を決めることは、「何が美しいか」を自分で決める選択だと思う。彼は、その美意識のアンテナがピリピリと立っている人のファッションに惹かれているようだ。思うに、そのアンテナが立っている人というのは、選んで選んで・・つまり、たくさんのものを同じく捨てている人なんじゃないかしらん。その孤独やストイックさ、「誰かとおなじ格好が出来ない」不器用さも含めて、きっと彼はファッションを、ファッションを纏う人々を愛しているのだと思う。だから彼は決して女性たちをけなさない。かって働いていた雑誌が、彼の写真を使って、街の女性たちの着こなしを揶揄するような記事を作ったとき、彼は激怒して即座にやめてしまった。そして、写真に映った女性たちを心配していたらしい。そんなところも、素敵だ。信仰について聞かれたときや、パーティからパーティに移動する夜の風景の背中に、「独り」が滲むんだけれど、幾つになっても凛と背筋を伸ばして一人でいるその潔さも、またカッコよかった。ラストの、同僚たちがしくんだバースデイのサプライズパーティに思わずうるうるしてしまった。ビルの生き方から、たくさんの喜びを貰える、そんな映画だった。
ニューヨークの街を歩く、胸がすくような個性的なファッションの人たちは、ほんとにカッコよかった。この映画を見たあと、梅田の街を歩きながら「ビルなら誰を撮るかなあ」と思いつつ人間ウオッチングしてしまった(笑)若い女性たちは、ほんとにおしゃれで可愛いけど、皆良く似てる。強烈な大阪のおばさまたちのほうが、ビルのお眼鏡に叶うかも。今週のNYタイムズのビルの頁を見ると、レースがいっぱい!この夏は大好きなレースの服を買おうっと。息子に「また、ひらひらやん」と言われてもかまへんわあ。
by ERI