先日の日曜日、東京の蒲田にあるギャラリー「南製作所」まで、大塚忍の個展を見にいってきた。 ギャラリー紹介はこちら。http://oishiihonbako.jp/wordpress/?p=1901
土地には「気」というものがある。そこに生きた人たちの暮らしの中から、少しずつ染みこみ、立ち上る気配のようなもの。この「南製作所」というギャラリーには、長年この場所で働いてきた人と機械たちが呼吸していた、気持ちよい「気」が満ちていた。大塚の写真は、その「気」の中から生まれる新しい命を紡いで、ひそやかな美に輝いていた。
大塚の写真は、かってここにあった機械や工具を撮影したものと、氷をテーマにした連作で構成されていた。人の手によって使い込まれてきた工作機械たちは、まるで生き物のようだ。そして氷の連作は、無機質な結晶であるはずなのに、氷の粒に閉じ込められた時間を湛えて、一度きりの命に咲いている。どちらも人の目には見えない命なのだが、大塚のレンズはその輝きを捉えて私たちの目に見せてくれる。日常の何気ないものからこういう思いがけない「美」を発見する彼女の写真が、私はとても好きだ。今回の写真たちも、まことに不思議な驚きに満ちていた。鳥の翼やおたまじゃくしの卵のような。はたまたナスカの地上絵や航空写真のような氷の写真たち。一番大きな作品は、立ち上がり、光に向かって触手を伸ばす植物を感じさせて、まさに「birthday」だった。工場から、ギャラリーへ。これまでの歴史を引き継いで始まった場所にふさわしい氷の華だ。彼女の作品を見ていると、静寂がなによりも雄弁であることを深く実感する。
この日はプレゼントがもう一つあった。オープニングパーティで、パーカッショニストのコスマス・カピッツァさんとオーボエとのコラボ演奏があり、間近で楽しい演奏を堪能させてもらった。私の耳には、彼等の音に重なって、ここに憩う目に見えないものが、写真たちと一緒に小さく歌っているのが聞こえてきた。この幸せな場所に、これからどんな物語が展開していくのだろう。