世界中が夕焼け 穂村弘の短歌の秘密 山田航 新潮社

今の若者たちは、短歌というものをどれくらい読むんだろう。中学や高校の授業で駆け足で通り過ぎて終わり・・というのが、大多数ではないかと思うんだけれど。かく言う私も、そんなに現代短歌に詳しいわけではないのだが、こういう本を読むと、やっぱり読まなきゃもったいないな、と思う。

風の交叉点すれ違うとき心臓に全治二秒の手傷を負えり

校庭の地ならし用のローラーに座れば世界中が夕焼け

こういう心の動きに、キュンとこない高校生はいないんじゃないかと思う・・・んだけどなあ。どうなんだろう。膨れ上がった自意識がちりちりする感じ。世界中が夕焼け、と思うむき出しの視線と、そこに漂う不安。ぎゅぎゅっと、「今」が肉薄してくる感じがする。短歌は、当たり前だけれど、千年以上の長い長い歴史があって・・・私たちの使う日本語の言葉の力と呪いのように深く結びついているもの。五七五七七という定型は、そのまま日本語の基本です。だからこそ、一つ使い方を誤ると、ただの陳腐な入れものになってしまう。言葉の力をいったん定型から引き剥がして、再び構築しなければ「今」を語る短歌は生まれないでしょう。この本は、穂村さんの短歌を山田航さんが詳しく解釈し、その解釈に穂村さん自身がコメントを付けたもの。この、山田さんの解釈がとっても面白いです。優れた「読み」は、新しい目を開かせて、作品に新しい魅力を与えるものだと、改めて感じさせられました。

穂村さんと私はほぼ同世代で、自意識の在り方とか、言葉の背景にある時代感覚とかが、理屈抜きで伝わってくるところがあります。その自分の感覚で掴んだものと、山田さんの歌人としての眼差しと心性で掴んだものの違いに、はっとさせられます。

春を病み笛で呼びだす金色のマグマ大使に「葛湯つくって」

by ERI