夏に、ネコをさがして 西田俊也作 徳間書店

細やかな、心の隅々まで満たされるような物語だった。大好きだった祖母のナツばあが、急に亡くなってしまった。あまりに突然の別れの日から、ずっと怖い夢の中にいるような気持ちの佳斗と両親は、ナツばあが住んでいた古い家に、引っ越すことにする。ナツばあは、テンちゃんというネコを飼っていたのだが、佳斗たちが越してきてすぐに、いなくなってしまう。ちょうど夏休みの佳斗は、姿を見せないテンちゃんを探して、町中を探して歩く。

私も猫を探して歩いたことがあるのでよくわかるのだが、どこにでも入れる、小さい体の猫の目線で町を見ると、見慣れたと思っていた町が摩訶不思議なダンジョンに思えてくる。ビラを作ってあちこちに貼らせてもらったり、見知らぬ人にも声をかけて手渡ししたりすると、「見かけたら知らせますね」と、思いがけない優しさや心遣いに出会ったりもする。佳斗もテンちゃんを探して歩くうちに、いろんな人と出会う。ナツばあの知り合いや、思い出にもたくさん出会うことになる。

この物語に登場するひとたちは、みんな心のうちに大切な別れや喪失を抱えている。ネコさがしを手伝ってくれる蘭も大好きな猫のメ―を亡くしている。そして、蘭のおばあちゃんは、戦争のときに、供出させられてしまった猫のことを、ずっと忘れられないでいる。それは確かに痛みだが、愛する人や生き物を失った痛みや悲しみは、人が人であることそのものだと、この物語を読みながら思えてくる。佳斗は、いなくなってしまったテンちゃんに導かれるように町を歩き、心のなかのナツばあに出会い続ける。そこにはもういなくても、愛したものたちの話を一緒にすることで、心のなかにひとつ、あかりがともる。物語とは、そんなあかりを、たくさん胸にともすことかもしれない。死者とともに生きることで、人は幾重にも重なる豊かな時間を生きるのだ、きっと。佳斗が、探していたテンちゃんと再会できたのか、それは物語を読んでいただきたい。親子で、ゆっくり読みたい一冊。