とても美しい絵本です。この何とも美しい絵本に、もっと他に素敵な表現はないかといろいろ考えたんですが、美しいものは美しいんだから、仕方ない。(開き直ってますね)金色で、片方のふちがピンクの大きなかえでの葉っぱが、ふわりと自分の樹から旅立ち、さまざまな場所に自分のその身を置く話です。ムラースコーヴァーさんのとてもシンプルなテキストと、出久根育さんの詩情に満ち溢れた絵が溶け合って、一頁一頁がとてもドラマチック。ツバメと葉っぱが一緒に空を飛んでいる頁なんて、一緒に風を感じてドキドキします。こんな風に空を飛ぶなんて、絶対に私たちは体験できない。でもね、不思議なんですけど、私はどこかにこの記憶を持っているようなんです。少年と山の上で出会うことも。虫を乗せて川を下るのも。無数の星たちを見上げて夜の空を飛んでいくのも。雪の下で、じっと春を待つのも。この絵本の舞台のチェコなんて全く知らないのに、葉っぱの出会う風景が、心がぎゅっとするほど懐かしい。散々旅をして、いっぱい命と出会って、そのあと懐かしい人に火の近くで再会して燃え尽きる。そんなことが、いつか自分にもあったと思うんです。
生まれて、死んで。輝いたり燃え尽きたり、風に吹かれて舞い上がったり、どこかに落ちてそのまま朽ち果てたり・・・きっと、私たちはそんな風に命を繋いで繰り返してきた。その流れが、自分にも、葉っぱにも、少年にも、ムラースコーヴァーさんにも、出久根さんにも、そして私にも流れている。言葉にならない原風景のような記憶が溢れるような、静かだけれどもドラマチックな時間がここにあります。ただただ、その時間に身を浸す寂しさに近いような幸せを感じました。手元に置いて、いつも眺めたい一冊。この絵を原画で見たいものです。どこかで原画展をしてくださらないかしらん・・・。
2012年11月刊行
理論社