大好きな市川さんの本が久しぶりに刊行されて、とても嬉しい。「市川朔久子はじめての絵本」(帯より)で、絵はおくやまゆかさん。おおきな牛がどーんとこっちを見ていて、ちんまり主人公のともちゃんが乗っている表紙がインパクトがあります。どんな中身か、覗いてみたくなりますね。
学校に行くのがいやで泣いているともちゃんが角を曲がると、そこには「のっしり」すわりこんだ大きな牛。牛は、ともちゃんに「もっ」と言い、ともちゃんは牛の背にのって、
のっ しり、のっ しり
ぎっ たこ、ぎっ たこ
歩き出すのです。「もっ」(この牛の声がとても好き。話しかけられてるみたい)という牛と、のーんびりしたテンポ。ああ、いい。毎日のルーティンがいやになっちゃうとき。心に引っかかることがあって、逃げ出しちゃいたくなるとき。こんな風に、牛の背に揺られてお散歩できたら、どんなにいいか。シンプルな筋立てですが、いつもの道の角を曲がると牛がいる、という素敵な非日常に誘う魔法が、とても丁寧にちりばめられています。
牛の背はきっとあったかくて、時々道草くったりして、急ぎたくない気分にぴったり寄り添ってくれると思います。大人もだけれど、子どもだって、最近とっても忙しくて、ひとりになれる時間もあんまりないかもしれません。読んでもらうのもいいけれど、この絵本をひらいて、ゆっくりゆっくり声に出して自分で読むのもいい。タイパとかコスパじゃない、「生き物の時間」に戻れるひと時を過ごせます。