この本、まず、タイトルがいいなあ!と思うのです。「おなやみジュース」。とても日常的な言葉で、核心をぎゅっと掴むこの言語感覚が、いつも凄いなあと思うのです。令丈さんは大阪の方で、日ごろコテコテの大阪弁の私としては、文章のリズムや言葉のニュアンスが、とても心に馴染む、というのもあるのですが、この本、15歳をとっくに過ぎた…過ぎたというのもはばかられるような年齢の私にも、まっすぐ伝わってくるものがありました。自分の不甲斐なさへの実感と、この年齢になってこそわかる「そう!その通り!」という共感がいっぱい(汗)この本、ぜひぜひ15歳の人たちに、いや、それ以外の年齢の人たちにも読んでほしいなあ~と思います。
自分の人生という小さな世界の中で起こる、悩み事。当事者以外には、そないに大したことやなくても、これがもう自分にしてみたらしんどくて、切なくてしゃあないこと。ほんとに、人生ってそんなことの繰り返しなんですよね。令丈さんは、そんな「コップの中の嵐」に揉まれた自分の経験を、「作家になりたい」と気付くまでのジタバタする気持ちを振り返りながら率直に語ってはります。自分の将来を考える時期になって、美大への受験で悩んだこと。悩んで悩んで、お父さんの言葉がきっかけで気付いたのは、「作家になりたい」という自分の本当の思い。その覚悟を受け入れるまでの葛藤。こう書いてしまうと簡単だけれど、自分という人生の「おなやみジュース」を飲み干すのは、とても勇気がいることです。誰のせいにもしない、自分をごまかさないでまっすぐ見つめること。私はこれが今でも非常に苦手で、やっぱりすぐに逃げたくなる。苦い「おなやみジュース」を飲まずにおこうとする弱さ、失敗したり傷ついたりしたくないという防衛本能に振り回される…令丈さん曰く「気に入らないおなやみジュースをそっと捨て、なかったことにする」ことが、たびたびです(汗)そんな私に追い打ちの言葉。「おなやみジュースが、グレードアップして再登場」そう!そうそう!これやん…もう、人生の真理を突いてますわ。その通りなんやわ、と何度もグレードアップに打ちのめされた経験があれもこれもと湧いてきます。私も、若い頃の自分に言うてやりたい。「おなやみジュースは、どんなにしんどくても飲んだほうがええよ」って。ほんまに楽しいことや、嬉しいことは、そんなおなやみジュースから生まれてくることも、知ってるから。
自分の思いを言葉にする、っていうのは客観的に捉える余裕を持つということやと思います。ぐるぐる回るコップの中の嵐に出会ったとき、「あ、これって令丈サンの言うてはったおなやみジュースかも」って思えたら、それだけでも安心できたり、少しだけ違うところからおなやみを見る目が出来るかもしれない。自分以外のだれかに相談してみよかな、と思えるかもしれない。だからこそ、この「おなやみジュース」というネーミングのセンスが素敵やと思います。悩みに悩んだあげくに、自分の命を断つ、なんていう取り返しのつかないことろまで自分を追い込んでしまう悲しいことにならないように。こんなふうに心に届く本がもっとあったらええなあと真剣に思います。ほんまに、たくさんの子どもに読んでほしいなあ。
2009年刊行
講談社