つなのうえのミレット エミリー・アーノルド・マッカリー 津森優子訳 文渓堂

この本、絵がとても素晴らしいのです。表紙の女の子、主人公のミレットの表情に思わず引き込まれてしまう。きゅっと結んだ唇と真剣な眼差し。強い風の中で踏み出していく一歩目の緊張と勇気が伝わってきます。

ミレットは、パリの宿屋で一生懸命働く女の子。ある日宿屋に綱わたり師のペリーニという男がやってきます。彼が密かに綱わたりをしているところを見たミレットは、どうしてもやりたくなって密かに練習するのです。それを知ったペリーニは練習をつけてくれ、ミレットはどんどん上達します。ある日、ペリーニが有名な綱わたり師だったことをミレットは知って、一緒に仕事をさせて欲しいというのですが、ペリーニは一度失敗した恐怖から興行ができなくなっていたのです。勇気を振り絞って再び綱の上に乗るペリーニですが、やはり凍りついたように立ち止ってしまう。その彼のところに、思わず走っていくミレット。

私は絵については全く門外漢なのですが、綱わたりをしている時と、ただ歩いている時では、全く身体表現というのは違うだろうと思います。体全体に漲る鞭のようなバランス感覚。しなやかな筋肉の張り。集中しながら、余計な力が入らないようにコントロールする難しさ。そんな体の表現する美しさが、見事に描き表されていて見とれてしまう。しかも、ペリーニが長年興行を張ってきた一流のパフォーマーであることも、綱の上の彼の姿に刻みこまれているのです。それに対する、ミレットの子猫のような身軽さ。若さ漲る運動神経、負けん気の強い性格も、それはそれは生き生きと伝わってきます。絵に物語があって、それが言葉で説明されなくても見るものにわかる。だからこそ、二人が綱の上で会うシーンが胸に迫ります。まっすぐ自分を見つめる少女の瞳から溢れる信頼が、ペリーニにとってどんなに嬉しいことだったか。手を差し伸べ合う二人から生まれる新しい希望と力が、きらきらと夜空に輝くラストシーンがなんて美しいこと。

今、NHKでやっている朝ドラの「あまちゃん」を、毎朝楽しみに見ているのですが、主人公のアキちゃん演じる能年玲奈ちゃんの目が、とても綺麗で毎朝見とれてしまいます。水気を含んでキラキラしてるんですよねえ。きっと、ミレットが綱の上でペリーニをみつめた瞳も、何恐れることなく輝いていたでしょう。マネやロートレックの絵のような、ノスタルジックな味が漂う絵から、ピュアな気持ちが溢れてくる素敵な絵本です。

2013年4月発行

文渓堂

 

 

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