[映画】ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの

この映画を楽しみにしていたのに、背中痛に阻まれて、なかなか電車にも乗れず・・・でも、今日は絶対!と勢いこんで出かけたものの、寒いわ、梅田のホームで失礼な男にむこうずねを蹴られるわ、グランフロントのビル風が物凄いわ、地下道が臭いわ(文句多すぎ)で少々へこみながらガーデンシネマにたどり着いたのです。でもでも。この映画を見て、季節外れの寒気に凍えた気持ちがすっかり持ち直して暖かくなりました。

この映画は、ハーバート・ヴォーゲルとドロシー・ヴォーゲルという夫婦のアートコレクターのドキュメンタリーです。ハーバートは郵便局員、ドロシーは図書館司書。特にお金持ちでもない二人は、大の美術好きで、お給料で買える現代アートを40年間1DKのアパートに集め続けました。その数およそ4000点。彼らはコレクションをワシントンのナショナル・ギャラリーに寄贈することにします。でも、ナショナルギャラリーだけでは、彼らのコレクションを展示しきれない。そこで、50×50プロジェクト、全米の美術館に50作品ずつコレクションを寄贈するというプロジェクトが始まったのです。この映画は、その様子と、各美術館を巡るハーブとドロシーの姿を追ったドキュメンタリーです。

このお二人が、とってもキュートなんですよ。彼らがアートを集めたのは、お金のためじゃありません。ただ「好きだから」。1DKのアパートは、もう壮観と言っていいほどアート、アート、アート・・・その間に猫と水槽。それだけしかない。ある美術館は、その部屋を再現してコレクションを展示していました。わかるなあ。作品と資料と猫に埋もれたその部屋は、二人で築いたど迫力の芸術作品そのものです。「コレクションの根底にあるのは、アートに全力を注ぐという行為」(by リチャード・タトル)であり、芸術に捧げた愛の証なんですもんね。僭越ながら・・・その徹底したアート馬鹿っぷりといい、猫好きといい、(アートと文芸というジャンルは違えども)芸術にとり憑かれた(笑)人生を送った先輩として、その生き方に心から共感してしまいました。

彼らのコレクション魂。よーくわかります。私も、読み切れないほど家に本があっても、とにかく本を買ってしまう。好きな本を手に入れるのは、多次元の宇宙を手に入れるようなものです。そこから広がる新しい世界を自分の本だなに並べる楽しさ。別に誰に褒めてもらわなくても、それが何にも利益を産まなくてもよいのです。コレクションし、その作品に対する愛情を語っていたいのです。私だって、なんでこんなレビューを日々書いているのかと言われれば、ほんとに、ただ「好き」だから。本や映画を愛していて、その話をしていたいからなのです。私が書いたレビューは、ここに越してくる前の「おいしい本箱Diary」に2000本ほど(多分。ちゃんと数えたことがない・爆)、まだこちらは100本に満たないので、彼らの数にはまだまだ及びませんが、多分その根底にある気持ちは一緒なんやろなあと思うのです。ハーブはたくさんの芸術家と親交があり、常に芸術の話ばかりしていたらしい。顔を合わせれば95%アートの話。はい、その通り(笑)。私も、本を愛しているお仲間さんにお会いすると、ひたすら本の話で終わります。そこも一緒。

芸術というものは、発信する人と、受け取る人と、二種類の人間があって成り立ちます。彼らは徹底的に受け取ることで、アートを支え、作家たちを応援してきた。彼らに愛され、評価されることで支えられたアーティストたちが、この映画には何人も登場していました。二人が買い続けてきたのは、既に評価の定まっている、たとえばサザビーズでオークションにかけられるような作家の作品ではなく、現在進行形で「今」を歩いている作家たちだった。二人は、彼らと現代アートの最先端を作っていったんですよね。それは、ハーブとドロシーが、お金や名声ではなく、芸術を生み出し、発信する作家たちの魂に最大の愛と敬意をささげていた証です。普通の暮らしをしていた二人が、こつこつと、ひたすらにその愛情を積み上げていった結果として、非凡な一大コレクションを成し遂げた、というところに、たまらないカタルシスを感じます。私も、こつこつと、書き続けよう。お二人のような偉業は無理だろうけれど、私もハーブとドロシーがアートを愛するように本を愛してるから。猫好きも同じだし(笑)―と、行きに凹んだ気持ちがすっかり膨らんで帰ってきました。寄付を募って資金を集め、苦労してこの映画を作られたのは、日本の佐々木芽生さんという監督さんです。それも、とても嬉しくて誇らしかった。どうせなら、こんな人生を送りたい。ほんとに素敵な映画でした。アート好きな方、必見です。

[映画】ハーブ&ドロシー ふたりからの贈りもの” への2件のコメント

  1. これよかったですよねーーー狭いアパートに所狭しと並べられた現代アート!芸術ってこういう人たちのためのものなのだと思いました。利殖とか少しも考えていない、ただ好きなだけ。ネコの世話をする代わりに絵をもらうところとか最高でしたね。

  2. >ぴいちゃんさん
    そうなんですよ!ただひたすら「好き」なだけ。その愛情が見るものに伝わってくる素敵な映画でした。ハーブさんもドロシーさんも、とても佇まいがキュートで清々しいですよね。「美」を見つめて生きてこられた方は、こういうお顔になるんだなあと思いました。そして、あのネコたち!ネコと好きな本やアートがあれば、この人生オールOK!ってところが、ぴいちゃんさんも、私も、このお二人に似てるかもです(笑)

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